1. はじめに
燃え尽き症候群(バーンアウト)は働くすべての人が陥ってしまう可能性のあるものです。燃え尽き症候群の状態に陥ってしまうと、精神的に疲れ切り、何も感じない状態になったり、強い自己否定感を感じ、仕事や人生そのものにまで意味を感じなくなるなど、精神衛生上の危機に見舞われる可能性を孕んでいます。
燃え尽き症候群について知り、適切に対策等を施し、対処することが大切です。
2. 燃え尽き症候群(バーンアウト)とは
燃え尽き症候群(バーンアウト)とは、心理的に疲れ切ってしまった状態のことを言い、慢性的な職業ストレスに晒された結果、引き起こされると考えられています。情緒的な資源が枯渇し、極端に言えば「何も感じない」状態であるのがバーンアウト。
燃え尽き症候群は主に、「情緒的消耗感」「脱人格化」「職業的効力感の欠如」の3つの症状が見られると言われています。
情緒的消耗感
情緒的消耗感とは、情緒的なエネルギーが消耗し、疲弊感を強く感じている状態のことを言います。抑うつ状態と言ってもいい状態のことです。仕事をする中で、その場に適した外見上の感情を表出させることを求められますが(例えば、レストランのスタッフがお客さんに笑顔で丁寧な気配りをする、上司の機嫌を伺うなど)、その外見上の感情を表出させるためには多大なエネルギーを要します。
日々の仕事の中で過剰に場面場面に適した感情表出を強いられることにより、そのエネルギーが枯渇してしまい、疲れ切ってしまった状態を情緒的消耗感として捉えられます。
脱人格化
情緒的に消耗しきった状態の次に発生する状態として、脱人格化が挙げられます。言葉の通りですが、先ほどの疲弊し切った状態により、いわゆる人間味・社会性のある対応ができなくなってしまった状態のことを言います。例えば、機械的な対応しかしない、顧客との接触を必要以上に最小限にするなどの行動が見られます。
この脱人格化は一種の防衛反応であり、情緒的エネルギーの消費を抑えるためにこうした行動になってしまうと考えられます。
職業的効力感の欠如(個人的達成感の低下)
一言で言えば、「やりがいが欠如」している状態であると言えます。一般的に燃え尽き症候群に陥る方の傾向として、真面目で高いパフォーマンスを発揮していた方であると言われています。前出の立つ人格化とも関連しますが、職務に対する達成感や有能感を感じられない状態になってしまうと、サービスの質は著しく低下し、パフォーマンス自体も低下していきます。そして、離職や休職につながることはもちろん、個人の内面状況としても自己否定や自己肯定感等の低下など、精神的に苦しい状況になってしまう可能性を孕んでいます。
なぜ、燃え尽き症候群になってしまうのか
私たちは仕事をする上で、その場に適した態度をつくり出し、コミュニケーションをとっています。
暗黙的な部分も多くあると思いますが、不文律として例えば、「社会人として」「接客スタッフとして」「介護職員として」「管理職として」「部下として」「営業マンとして」など、それぞれの職務や役割に応じた”態度”を暗に求められることが多くあると思います。
このような社会通念上、適した態度をつくり、表出させるには、情緒的、感情的なエネルギーを要します。このエネルギーは無尽蔵に生まれてくるものではなく、有限なものです。なので、過度な感情調整を求められるような職場や理不尽な要求が繰り返されてしまうような職場、相談できない環境に身をおくことになると、このエネルギーは枯渇してしまい、燃え尽き症候群へのリスクを高めてしまいます。
このような職務や役割に対した要求(自身の思い込みも含めて)が過度なものである、それが絶え間なく継続されている、あるいは職場において相談できるような環境がないなど、燃え尽き症候群に陥ってしまう環境的な要因となります。
とはいえ、全員が燃え尽き症候群に陥っているわけではありませんので、適切なストレスコーピングの方法を用いることで燃え尽き症候群に陥る危険性を下げることは可能です。
3. バーンアウトとうつ病の違い
結論、燃え尽き症候群(バーンアウト)の状態であれば、うつ病の可能性があると考えていただければと思います。
燃え尽き症候群は長らく疾病として定義はされていませんでしたが、世界保健機関(WHO)が2022年に発行した国際疾病分類(ICD-11)で初めて定義されました。WHOの見解では、あくまで「仕事上」で起こる現象であると燃え尽き症候群について言及していますが、過去の燃え尽き症候群に関した調査や臨床研究によれば、細かな定義の違いはあれど、燃え尽き症候群とうつ病との境界は曖昧であるという結論が示されています。
事実、症状としても重なる部分が多分にある両者ですので、うつ病の治療と同様にまずは何もしないなど、休息を取ることが最優先されます。もし、自身の状況で心配にお感じなられる場合、心療内科や精神科、心理士等へ相談されることをおすすめします。
4. バーンアウトを予防するために
強制的な報酬をあらかじめ設定する
ここでの報酬とは「遊び」のことなのですが、これは、何かと仕事に追われてしまい、あれもこれもとついついハードワークで長く働いてしまう方々に向けてです。そうした方々にとって、仕事にやりがいを感じ充実した日々を送られているのかもしれません。しかし、自身のプライベートや遊びなどを後回しにした結果、その5年後や10年後に強く後悔し、人間関係や健康の悪化、そしてバーンアウトに陥る可能性が高くなると言われています。
仕事のTODOリストを考える際などに、半ば強制的なルールでここまで仕事が終われば、遊びや予定の計画をすると決めてしまうといいかもしれません。このようにすることで、長期的なスパンで考えた時のバーンアウトを予防することができます。
また、仕事を優先するような選択をしようとする時、「半年後や1年後の自分はこの選択をどう思うだろうか」のような未来の自分視点を想起するようルール化することも効果があります。選択を行うための視点を複数用意することで、メタ的に物事を捉えることができるようになりますし、このメタ認知自体がバーンアウトを予防する効用を持っていたりします。
自分と仕事上の役割を分ける
自分と仕事上の役割を分けて考えること。わかりにくい言い回しかもしれないが、要は視点の切り替えです。
例えば、レストランのホールスタッフの管理者として働いていたとしよう。接客業をしていれば、少なからずハードなクレームに対応しなければならない場面があるでしょうし、明らかに客側の主張が理不尽で理にかなっていないということもあるでしょう。そんな時、自分と仕事上の役割を分けて考えていれば、管理者としてしなければならないことは何か、という思考になり、例えば、部下であるスタッフを守る、他の客へのサービスの質を保つために場を変えるなど、という次の行動がスムーズにとられるようになると思います。
こうした思考になれば、理不尽で無理難題なクレームが発生したことやクレーマーから受けた罵詈雑言に傷つくことや自責の念に駆られることも可能性として小さくなり、「職務を全うした」という感情が結果として発生することになるでしょう。
とはいえ、自身の仕事上の役割を明確化すると同時に、日頃からそれを意識しておくことが重要です。
このように、自身の行動規範となるような基準があらかじめ明らかにされ、意識できた状態にあれば、現場で起こったことに対して俯瞰的に考えられるようになり、無闇に自分が傷ついたり、傷つけたりすることがなくなります。こうして、自分と仕事上の役割を分けて考えることで、バーンアウトを予防する1つの方法となりえます。
生起した感情を受け入れる
先ほどの「自分と仕事上の役割を分ける」に通ずる部分ですが、仕事をしている中で様々な感情が発生することになると思います。(もちろん、その感情を外見上に表出させてしまうと、色々トラブルになるかもなので気をつけてもらえればと思いますが)無理に感情を抑え込もうとせず、その生まれた感情に気づき、「今、すごい怒りの感情が生まれたな〜」のように少し高し所から自分の感情状態を眺めるように感情を観察してみるといいでしょう。
大事なことは、そうした感情を無理に抑え込んでしまわないこと、そして生まれた感情に対して自分自身を責めないこと(こんなことを思ってしまった私は最低だのように)です。
従業員満足度を考える
最後に組織的な対策についてです。
近年は、「消費」から「体験」へと、サービス設計の視点が変わり、いかにサービスを利用する顧客の体験を良いものにするか、顧客の満足度を高めるか、各社がしのぎを削っています。そのおかげで、サービスを利用する上での私たちの体験はより良いものとなり、生活をより豊かにしてくれました。
一方で、その顧客満足度をより高めていくために、そこで働く従業員に皺寄せが発生しているかもしれません。
各組織でエンゲージメントサーベイなどを通して従業員の心理的な状況を把握し、あらゆる取り組みに繋げている組織も増えてきました。「顧客満足度と従業員満足度は正の相関がある」ということも言われていますので、従業員へのケアはもちろんのこと、従業員が生き生きと気持ちよく働けるサービス設計を行うことも重要です。
5. まとめ
以上、燃え尽き症候群について書いてきました。
個人要因、環境要因により人それぞれ燃え尽き症候群に陥る危険性には差がありますが、仕事をされているすべての人が陥る可能性を孕んでいます。
誰でも陥る可能性があるということなので、自身でなくとも周囲で燃え尽き症候群の状態になってしまう方が出てきてしまうかもしれません。周囲のサポートがその人の今後に大きな影響を与えることもあります。普段と比べて「ちょっとおかしいな」というような時は、声をかけてみるなど、小さなことでも構いませんので気にかけてみてください。
Wiberoでは、燃え尽き症候群に関するカウンセリングを受け付けています。
もし悩んでいるなら、話をしてみることが状況の改善につながる第一歩となるかもしれません。少し、勇気がいることになるかもしれませんが、(オンラインですので)気軽にお話しにいらしてください。
燃え尽き症候群に関する相談
https://wibero.co.jp/prob/mental_burnout
燃え尽き症候群 対応可能カウンセラー
https://wibero.co.jp/search/burnout
【参考文献】
Bianchi, R., Schonfeld, I. S., & Laurent, E. (2015). Burnout–depression overlap: A review. Clinical Psychology Review, 36, 28–41. https://doi.org/10.1016/J.CPR.2015.01.004
Hakanen, J. J., & Schaufeli, W. B. (2012). Do burnout and work engagement predict depressive symptoms and life satisfaction? A three-wave seven-year prospective study. Journal of Affective Disorders, 141(2–3), 415–424. https://doi.org/10.1016/J.JAD.2012.02.043
久保真人. (2007). バーンアウト(燃え尽き症候群)--ヒューマンサービス職のストレス. 日本労働研究雑誌, 49(1), 54–64. https://cir.nii.ac.jp/crid/1524232504841239680.bib?lang=ja
執筆者
上田捷悟
Shogo Ueda
公認心理師
企業向け教育支援事業等に従事し、各組織の人材育成を支援。その後、合同会社Wiberoを設立。公認心理師。おしるこが好物。
研修・セミナー・ワークショップ
【管理職向け】組織力をアップするためのメンタルヘルス研修
アサーショントレーニング(アサーティブコミュニケーション研修)
認知行動療法活用研修
学生向けメンタルヘルスセルフケア研修
セルフマネジメント研修
心理学を応用した習慣化トレーニング(研修)
レジリエンス研修
先延ばし行動防止研修
カウンセリング基礎研修
若手・新社会人向けメンタルヘルス・レジリエンス研修
メンタルヘルスセルフケア研修